にのまえは席数15程の小さなお店ですが、10件以上の農家さんに蕎麦作りをお願いしています。
にのまえが求める蕎麦は、個性的な地質を持つ山奥の斜面の畑で育てられ、天日で乾かされたものです。
斜面の畑というのは実際に目にすると驚くほど狭く、1枚が1反(10アール)ある場所はまれです。その畑が1件に数枚ですから生活を農業に頼れない働き盛りの人々は残念ながら都会で働くことになり、夢のようなおいしい蕎麦が穫れる宝の畑を守るのは80歳を過ぎたご老人がほとんどです。
その方々に無理にお願いして手作業だけで蕎麦を作っていただいているのですが、その量はもちろん限りがあります。それで沢山の農家さんと契約する必要があるのです。そして、蕎麦の味は畑ごとに違いますので、にのまえではお客様にいらして頂く度に違う畑の蕎麦を味わってもらえるのです。
にのまえで使用する蕎麦は、そのような農家さんが作ってくれた例えようがないほど貴重なものなのですが、実際に蕎麦づくりをお願いできるまでは何年もかかりました。
今まで会ったこともない「そば屋」と称する人間がいきなり訪ねてきて蕎麦を譲ってくれと言ってもそれはできない相談です。
毎年何度も足を運び、顔を覚えていただいてそれから信頼関係を築いてやっとお願いを聞いて頂けるのですが、農家さんはご高齢です。畑作業がいつまでできるかはわかりません。悲しい別れも数多く体験しております。