そばの味の大半は栽培地で決まります。

常陸秋そばは確かに優れた品種だと思いますが、その持ち味が生かされるのは環境です。

昔から水府、金砂郷の山では「朝霧の立つ丑寅(うしとら)の斜面」の畑がそば栽培に最適と言われています。

この短い言葉の中にはたくさんの情報が含まれています。

まず、「朝霧の立つ」は昼と夜の寒暖の差が大きいことを表します。昼の温度が上がれば空気は水蒸気をたくさん含み、それが夜間の気温で冷やされて霧となるからです。

丑寅というのは北東のことです。この方角は朝日の当たる向きです。午前中は日当たりがいいのですが、昼を越えるころには陽は山の向こうに隠れます。地元の農家さんは言います。西日の当たる畑で良いそばの取れたためしはない、と。

そして、大雨でも水が容易に低い場所に流れ、水たまりができることの無い急な斜面に存在する水はけのよい畑こそが美味しいそばを生むのです。良質のたばこや葡萄もこのような土地で生産されます。

素晴らしいそばを育む畑の存在は奇跡ですが、その存在はもちろん主がいての話です。農家さんの目から離れてしまった奇跡の畑は速やかに山に還ることになります。

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