にのまえで使用する蕎麦は茨城県の奨励品種である「常陸秋そば」です。
常陸秋そばは、現在の常陸太田市内にある旧金砂郷町、水府村で古くから育てられていた在来種「常陸そば」の種子を系統選抜育成することで品種固定した茨城県の奨励品種で、県内全域において栽培されております。
常陸秋そばは食味、香り共に良好で高値で取引されることもあり、機械化による大規模蕎麦栽培が導入され、茨城のそば生産量は長野や秋田等と並び、北海道に次ぐものとなっています。
ただ、蕎麦好きなら誰でもが知る蕎麦打ち名人がその味に太鼓判を押したこともあり、常陸秋そばであれば美味いという評判が一人歩きしているように感じます。
そばは栽培地を選ばない植物で、どのような土地でも生産できるため、現在、茨城県では筑波山麓に広がる広大な土地や県内の水田跡地で大量に生産されていますが、味、香り共に優れたものを生む土地は限られています。
ところで、一般に言われる常陸秋そばの特徴は
香り高い
味が濃い
甘みが強い
粒が大きい
粒がそろっている
というものですが、いずれもある一定の基準に照らし合わされたものではなく、あまりに抽象的です。
どんな土地でも育つと言われているように、ソバは生命力が強く、それは適応力の強さと大きく関係がありますので、この植物はそれぞれの環境に合った育ち方をし、実をつけます。
一般的に温暖な平地で育った蕎麦は粒が大きく、実の数も多く単位面積当たりの収量が多くなりますが、山のそばは全く逆です。
ソバという植物にとっては陽の沢山当たる平らで暖かい土地の方が光合成をしやすくでんぷんをたくさん貯えられるので生育に向くのでしょう。
ただ、ストレスなく育ったソバがと美味しさが直接結びつかないのが難しいところなのです。
そばの香りや味の成分は主に実の表面に近い部分に集まっています。実が小さいほうが全体における表面積の割合が大きくなりますので、この点から見れば粒の小さいそばの方が味も濃く、香りも強くなると思われます。
実際にこの傾向は食べてみても分かりやすく、粒の大きい平地の蕎麦より粒の小さい山の蕎麦の方が濃厚ではるかにおいしく感じられます。